麦粒雑記

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兎に角熱い漫画!!

『最強伝説 黒沢』を読み直す

個人的には〈気合いの入る漫画〉

 この日は、福本伸行さんの最強伝説 黒沢という漫画を1巻から最終巻の11巻*1まで一気に読みました!!

 

 この漫画、自分が好きな漫画の中ではかなり上位に入るのですが*2

 好きな漫画のうち「読んだ後やってやるぞ!と気合いの入る漫画は?」と聞かれたら、迷わずこれを挙げるのではないかというような漫画だったりもします。

 

 と、ここから先ネタバレが多く。

 かつラストの展開について、連載終了してからかなり経っているとはいえ、思いっきりネタバレをしているので、注意してください。(ちなみに『最強伝説 黒沢』以外に、『無頼伝 涯』と『侍ジャイアンツ』のネタバレも含む)

 

 ええと。一応全体の流れを説明すると。

「人望のない男、黒沢があれこれしているうちに不良グループとのけんかに巻き込まれ、しかし気がついたらその不良のボスと仲良くなっていて、さらに大きな喧嘩に挑むことになる」というようなもので。

 一見、少年漫画ではありそうな話なのですが。

 

 これ、主人公は44歳のおじさんなんですよね……。

 で、このおじさんである黒沢が第一話で、自分の人生こんなんじゃ駄目だと気がついて、あれこれやるのだが空回りして……というのが序盤でして。

 この序盤はあまり喧嘩の要素がなく、〈人付き合いが苦手な黒沢が、職場の建設現場で人望を得ようと足掻く〉というのが話の中心になっています。

 

 この部分の見どころは。

 人づき合いの苦手な人ならわかるような素直に親切ができないという点で、特に〈差し入れ〉に関しての話題は共感できる点もあるのですが。

 流石に仕事の時間中にビールを持ってきたり、周りの人の弁当に勝手にアジフライを突っ込むのはやりすぎかと思います。

 

 後、この時期の展開で。

 黒沢が街で親子を見かけると、自分も仮に結婚していれば、あれくらいの子供がいたはずだと考えるエピソードがあるのですが。

 これは後に、中学生の不良のボス・仲根と親しくなる伏線……だったのかもしれません。

 

 で、その仲根と知り合いになる辺り。ここでまず興味深いのは不良に負けた黒沢が、一旦は「生きててよかった」と思いつつ、その後「人間なら生きてるだけじゃなくて理想が必要」と考えを改める場面。

 まあ、ここで黒沢が「生きててよかった」と思ったと思うきっかけが『シートン動物記』で、その結果「動物と人間は違う」とも考えなおすのですが。

 

 そもそも人間、特に現代の日本人は「生きるか死ぬか」と日々を悩まなくても何となくで明日がある人がほとんどで。

 一方、動物は下手をすれば今日のうちに死ぬ、つまり常時命がけなので、そもそも人間の「生きててよかった」と話が違うんですよね。

 

 まあ、この『最強伝説 黒沢』という話自体が、何となく生きていて取り返しのつかなくなった男である黒沢が主人公なので。

 ただ生きていれば、つまり命が長らえればいいのか、いや良くない!!

 となるのは当たり前なのかもしれませんが。

 

 で、こうして一度負けた不良にリベンジしに行くことにした黒沢ですが。

 そこでの最初の不良三人および劣勢になった不良たちが呼び出した不良のボス・仲根と黒沢の決闘。

 この場面はこの漫画の中で、最も格闘漫画〉的な要素の強いエピソードになっているのが読んでいて面白かったりします。

 

 この後も、黒沢は不良や暴走族と戦うのですが。

 大体が策略によって勝つといった方向性になり、ここのように、拳対拳、あるいは手持ちの武器同士という戦いは珍しかったりするのです。

 どうやらWikipediaによれば作者の福本さんはキックボクシングの経験があり、その辺りが影響しているようなのですが……。

 

 しかし、肉体労働をしており、体格にも恵まれているとはいえ、喧嘩慣れしている様子はない黒沢が、おそらく喧嘩慣れしている仲根と互角に戦える辺りは、黒沢も若い頃、格闘技経験があったのかもしれません*3

 

 で、仲根を含めた中学生の不良

 登場時から黒沢、つまりおじさん視点で描かれているため〈何を考えているか理解不能な若者たち〉という表現がされているのですが。

 仲根が不利になった場面から、仲根視点の大人や黒沢が描かれるのもポイントなんですよね。

 

 仲根にとって普通の大人〉は〈自分たちを異次元の存在として遮断し、関わり合いになろうとしない、口先だけの奴らなんですが。

 黒沢は正常と異常、あるいは生きると死ぬの境界線を越えられる大人であって、他の大人とは違うと、決闘によってわかってしまうという。

 まあ、その結果、仲根は黒沢を〈兄さん〉と呼んで慕うようになるのです。

 

 で、この仲根が自身の問題を相談しに、黒沢の働く建設現場までやってくるのですが……実はこの仲根、単に喧嘩の強いだけの不良ではなく。

 ものすごく頭が良く、英語なども流暢にしゃべり、しかもノミ屋で月80万円も稼いでいるというとんでもない奴だったことが判明したりするのでした。

 

 まあ、そんな仲根なのですが、レスラーの先輩三人にたかられているという問題を抱えていまして。

 黒沢は当初、当然助ける気はなかったのですが、自分の事をあまりに買ってくれる仲根に心を動かされて結局は助けに行くという……。

 

 で、このレスラーとの決闘エピソードの前に。仲根が黒沢を会員制の娯楽施設に招待するエピソードが入るのですが。

 個人的にここで気になるのは仲根達との会話の際に〈大使〉の話題が出て黒沢がマグマ大使を思い浮かべるところで。

 

 ここで黒沢がマグマ大使の特長として挙げている「笛吹くと飛んでくる」というのが、後の娯楽施設で黒沢がピンチになって助けを求めると仲根が飛んできて助けるというのにかかっているような感じが、果たして狙ってやっているのか? それとも偶然なのかわからないけれども面白く感じました。

 

 さて、話は戻ってレスラーとの決闘編

 

 まず、黒沢が決闘前に職場の同僚と行っていた居酒屋に飾ってあった武士の人形が鎧を纏っているのを見て武士は死んでもいいと腹に落とし、その後死なぬ算段をすると気がつく場面。

 

 そもそも失敗したら死ぬという現実を受け入れ、真剣に考えているからこそ、その命を無駄にしない、つまり生き残る策を本気で考えられるわけで。

 命を賭けることと、死なぬ算段をする事は逆ではなく、むしろ同じ方向性の話なんですよね。

 

 だから、これ自体が非常に深い内容なのですが。

 漫画としてみると、ここから黒沢の戦い方も〈相手に突っ込んでいく〉から〈事前に策を練って実行する〉タイプに切り替わっていて、それが面白く感じました。

 

 で、その策を練った、黒沢対レスラー三人の戦い。

 テーマは〈聖と穢〉あるいは〈清と汚〉のように感じるのですが。かなりその辺りが意識された描かれ方をしているのが興味をひかれました。

 

 仲根は不良だけれど、それはぐれではなく、まっすぐなガキ大将タイプで。

 黒沢自身、仲根がバックにいる極道の親分の名前を使おうとした際に「汚れず……生きろ…!」と言っているように清い存在

 一方、レスラー三人は黒沢に〈クズラー〉と呼ばれるのですが、これは神聖なレスラーを汚しているからという理由であり、レスラーは聖だが、彼ら三人は穢

 そして戦いの舞台は神社という〈だけれども、黒沢は人糞を撒くという戦術を使うため〈*4

 そしてクズラー達はそんな黒沢を「倒しても汚点」として逃げていくという……。

 

 黒沢のやっている事が常軌を逸脱しているので完全にギャグなんですが。

 何かここにすごいテーマ性を感じたりしていました。

 

 また、黒沢の行った行為を「神聖なところに糞を撒く」とするとこれは神話のスサノオを連想させて何か興味深いかもと思っています。

 スサノオが一方では我儘な乱暴、一方では人々を救う英雄であることは黒沢と共通点があるし。

神話に登場する強い神様」というのは「最強伝説」とかかっているのかもしれません。

 

 その後の展開として、黒沢が不良チームに襲われ、そのリーダー格が複数いたのも八岐大蛇が複数頭をもっている事に関連があるとも思えます*5

 

 まあ、そんな訳で、この後複数の不良グループが黒沢を狩りのターゲットとして狙うエピソードが始まるのですが。

 その始まりとして、現場にいた黒沢が覆面の人物に襲撃されてしまい、誰が犯人か推理する展開が入ったりします。

 

 ここで、探偵のイメージとして『名探偵コナン』のコナンが何度も登場するのですが。

 まあ、これは言うまでもなく、出版社の関係と見た目は子供、頭脳は大人」のコナンに対して「見た目は大人、頭脳は子供」な黒沢の対比なのでしょう。

 

 で、そんな感じで建設現場の中に犯人がいるかと疑心暗鬼になっている黒沢は。

 その後、仲根からの電話で実は自分を攻撃していたのは、黒沢がレスラー三人を撃退したと聞いて、逆にハンティングスピリットに火が付いた不良たちだったと知り、身を護るために奇行に走るのですが……。

 

 面白い事に。職場の同僚から見ると、黒沢は人目を気にせず奇行を行う人なのですが。

 黒沢は黒沢で実は今まで周囲が「なんだこの人は」と悪い意味で自分を見ている事に気がついてはいたという……。

 

 この場合、黒沢の考える〈変な人〉のレベルが周囲のそれより高いため、黒沢が常識の範疇と思ってやっている事が、既に変人の域に達している……のか。

 あるいは黒沢も周囲も〈変な人〉と判断するレベルは同じなのだけれども、黒沢はその〈変な人〉レベルを突破してしまう段階では客観的に自分を見られていない……のか。

 

 まあ、黒沢と周囲の常識は極端に外れていない代わりに、微妙にずれていて、その微妙な差のせいでかえって黒沢は自分が普通ではないと気がついていないという可能性が高いのかな? と思います。

 

 で、この一連のエピソードの特徴は、他の戦いと違って、不良の明確なターゲットが黒沢になっている事なんですよね。

 他は、たまたま不良たちが絡んだ大人が黒沢だったり、あるいは黒沢は助っ人だったりするので、黒沢自身が狙われた話は珍しいかと。

 

 まあ、ただ。

 黒沢が不良グループに勝利できた理由が、たまたま黒沢の同僚が、黒沢を狙う不良のトップ5人が集まっているところを発見したからなので。

 このままじわじわと誰が敵かわからない状態で、黒沢対不良が続いていたらどうなったのかは気になるところです。

 

 そして、この漫画のラスト、いうならばホープレス編

 流れ的に、どうやら打ち切りだったためにこういったラストになったらしいのですが、そのためか、このエピソードはこの漫画のテーマを全開に描いているエピソードにも思えます。

 

 特に〈ホームレス〉が、自らを〈ホープレス〉と言っている辺り*6

 多分、この漫画のテーマ的には、仮に住むところや職をなくしても、希望はなくしてはいけない訳で。

 むしろホープレスの方がホームレスより悲惨だという……まあ、実は彼らも希望を諦めていたわけではないことが明らかになるのですが。

 

 他にも、自分が自分を見限ったらいけないとか、人間の尊厳を踏みにじってはいけないとか、正義という名のもとに人は残酷な行いを肯定する*7など、メッセージ性の強い話や。

 暴走族と公園に住んでいる集団という〈多対多〉の戦いが描かれている辺りなど、戦ものの話としても面白い部分があり、かなり濃厚なエピソードになっています。

 

 で、個人的に。黒沢がホームレスの中におばあさんを見つけ彼女(=女性)を護るために戦うのが男である〉という理由で戦おうとする場面。

 本来、僕の価値観からすると「男だから」で行動するのはあまり好きではないのですが。

 この場面においては、もう、黒沢やホープレスのメンバーにとって、闘う理由はそれぐらいしか残っていないと考えると、何か、理解できる気もするから不思議だと思っています。

 

 そしてラストの展開。

 同じ福本さんの漫画『無頼伝 涯』と同じなのですが*8。少年漫画と青年漫画の違いからか、明確に生き残った涯と違い、黒沢は死んだような描かれ方で終了していたりします。

 

 まあ、この続編である『新黒沢最強伝説』において、無事に復活を遂げるのですが……個人的には曖昧なまま完結するのも悪くなかったかとも思います。

 いえ『新黒沢』も面白いのですけれど。

 なんというか、あれは「黒沢が無事に生きていた場合の続編」であって『最強伝説 黒沢』においては黒沢は死んでいる可能性もあるという事にしておきたい

 ということです。

 

 まあ、ラストが主人公の死亡で終わったインパクトのある漫画というと『侍ジャイアンツ』もあるのですが*9

 どちらも型破りな主人公が無茶苦茶なことをやって、ギャグのような場面も多いのに、ラストで衝撃的な結末という場面が似ているかと。

 

 そういえば、この最強伝説黒沢』でも侍とか武士がテーマになる事が非常に多かった訳ですが……侍の最後は死という事なのでしょうか……?

 気になりますねぇ。

*1:続編の『新黒沢 最強伝説』もあるが、今回はあくまで『最強伝説 黒沢』のラストを最終巻としています

*2:まあ、そもそも読んだ漫画に関して順位なんてつけていないし、仮につけてもその時の気分ですぐに変わるので、あくまで感覚的なものです

*3:『新黒沢最強伝説』の方の過去回想場面で、多少それっぽいのはあるのですが、実際どの程度の経験者かは不明

*4:さらに言えば黒沢は人糞を〈朝の贈り物〉と清いイメージの名前で呼んでいる

*5:流石に不良のリーダー格は8人ではなく5人だったが

*6:ちなみに、彼らは路上にホームはあるという言い分から〈ロジョー〉とも名乗っている

*7:仮面ライダーOOO』という作品の中で〈正義のためなら人は残酷になれる〉というのを扱ったエピソードがあり、これと比較すると面白いかとも思います

*8:こちらも『黒沢』と同じで打ち切りになっている

*9:原作:梶原一騎、作画:井上コオ。ちなみに、アニメ版とは全然展開が違う